アプロー夫妻 無名騎士藩国へ行く

”それでねそれでね!”
”なぁ……いい加減、寝ようぜ?”

70707002 船旅の夜の夫妻の会話  


 一際賑わう巨大な港、その名をアレキサンドリア港という。一説には、その名はこの国に伝わる「ウーサー・アレキサンドリア」という英雄の名を関したものだといわれている。
貿易と観光を両立するために作られたこの港は巨大な貨物専用の港とは別に、観光利用を目的とした港が別々に用意されていた。
 まさにその観光用の港、旅客船が行きかう港に、一人の人影があった。
「あぁ……遅いなぁ……何かあったのかなぁ」
 目をぐるぐるさせながら右にふらふら左におろおろと落ち着きの無い様子でいるのは政庁勤めで吏族を担当しているキギであった。
 藩王から「今日特別なお客様がお見えになるので、粗相の無いようにおもてなしをしてください」といわれてこのかた、もう落ち着こうにも落ち着くことが出来ずに結局客船到着3時間前からこうしてそわそわと待っているのだった。
 なので、遅いというよりも彼のほうが早く来すぎていたのだが、緊張のためかまったく気づいてはいなかった。
「あぁ……何で僕がこんな重大な仕事を……あぁ、どうしよう」
 現在、客船到着まであと2時間30分、であった。



「海って広いね〜」
「そうだなぁ」
 海風吹く船の甲板。沢山の観光客が思い思いの時間を楽しんでいる中、一組の夫婦がのんびりと海のた旅を楽しんでいた。
「ねえコウ。楽しみだね!」
「そうだな……皆元気にしてるかな?」
「お祭できて以来だから……今から楽しみだな〜」
 妻と思しき、頬にそばかすのある女性は何かを思い出したのか、幸せそうに笑いながら思い出に浸っていた。金色に輝く髪が、海風に揺れている。
 その横で手すりにもたれかかるように立っていた夫と思われる男性は、そんな妻の顔を見て、同じくらい幸せそうに目を細めた。
「それにしても……眠そうだねコウ」
「……そう言うなら、もうちょっと寝させてくれたっていいだろ?」
「だ、だって……」
「まったく……昨日の夜はほんと大変だったよ」
「ななな、なに言ってるのよ!」
「よくまぁ……アレだけ」
「こここ、ここで話すことじゃないでしょ!」
「ふぁぁ……アレだけ話す内容があったなぁ……ほんと、途切れることなく朝まで話してたな」
「だ、だってぇ〜……」

 一斉に、甲板に出ていた観光客がすっころんだ。

「ん?」
「なんだろ……?」
 そそくさと立ち去る観光客達を二人は不思議そうに見送った。



 遠くに見えていた点が、近づくにつれて徐々にその形を船に、巨大な旅客船に姿を変えたことで、キギの緊張はゲージを振り切り、もうぐるぐるどころかくるくる状態となってしまっていた。
「ああ〜どうしましょうどうしましょう」
 おろおろしながら、とりあえずくす球とか赤じゅうたんとか色々用意した。
「わ〜なんかすごいね〜」
 接岸した船から一番に下りてきた女性、アプローは目の前のいささか大げさとも言える歓迎ムードに目をぱちくりさせていた。
「ええと……お、おいでませ無名騎士藩国へ〜」
 アプローを目の前にし、既に緊張と恥ずかしさではずか死しそうな勢いのキギは頭の中に昨日の夜から叩き込んでいおいた台詞を棒読みではあったが、辛うじて口にしていた。
「あ〜……えっと、ども」
 その後ろから眠そうに目をこすりながら荷物を持った男性が現れた。
「ええと……こ、この度はわが国にお越しいただき誠に感謝を」
「あー!」
「ななな、なんでしょう!?」
「ねこさんだー!ねこーねこー!」
 遠くに猫整備士たちを見つけたアプローは目の前の歓迎そっちのけでそっちに向かおうとする。
「こらこら、ちょっと待てって」
 そのアプローの首を先ほどの男性、コウタローがむんずとつかむ。
「コウ、痛い〜」
「もうちょっと大人の行動をとれって、折角こうして歓迎してくれてるんだから」
「あ〜……ホテルで荷物を置いたあと、猫整備士たちのいる工場にご案内いたしますよ」
アプローの反応にようやく緊張の解けたキギは苦笑いを浮かべた。
「それでは……改めまして。ようこそ、無名騎士藩国へ!」


文:ナナシ


L:アプロー・鍋山と夫の人 = {
 t:名称 = アプロー・鍋山と夫の人(ACE)
 t:要点 = そばかす,金髪,ポニーテール
 t:周辺環境 = 28歳の元光太郎