L:残されたアプロー = {
 t:名称 = 残されたアプロー(強制イベント)
 t:要点 = 手を打ってクーリンガンは面白いというながみ,狂乱の殺人者GENZ,死んだコータロー
 t:周辺環境 = 失業率50%の無名
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *ながみ、GENZ,コータローはゲーム好きという設定が付与される。
 }
 t:→次のアイドレス = なし



 無名騎士藩国の王城深部、鋼の王で知られるGENZの私室。
 誰も立ち入る事が許されない地下室と異なり、ここには彼の友人達が訪れる事もままあった。

「それで、今日はどうして俺が?」

 アプローの夫の人にして子供達の頼れる父親ことコウタロー。今日は藩王であるGENZに呼び出されてこの私室にやってきていた。

「それは俺も聞いてなかったっぺよ。あ、でも合併のよかったところがまた一つ。遊びに来るのが楽になったっぺ!」

 元ながみ藩国の王、現ながみ村の村長であるながみも一緒である。ご結婚おめでとうございます。
 ごく親しい仲である彼らを前にして、ようやく政務を終えて帰宅したGENZは、隈の中々消えてくれない顔をほころばせた。

「それがー」

 参りましたよという表情をするGENZ。参ったつもりは毛頭ないが、困っているのは確かに間違いなかった。

「クーリンガンがまたNWにやってきているようでして。今のところ目だった動きはないんですがギギギ」
「あー」
「え、じゃあここに転がってる三国志関連の書籍とかゲームって」

 ながみが室内を見渡すと、そこには大量の三国志関連アイテムが用意されていた。
 資料収集に余念がないのはGENZの特徴であり長所でもある。
 それにしたって、クーリンガンのことを調べるために孔明の事を調べるというのは少し回りくどいんじゃないか。と、コウタローは思った。口には出さなかったが。

「ということで、これから資料漁りを始めたいと思います!!」
「え、今から? ……いや、いいですけど」

 高らかに宣言するGENZだったが、現時刻はとうに深夜23時を回っている。そんな時間に呼び出して問題ないだけ三人は仲がよいという事ではあるのだろうが、それにしたって無茶な話ではある。
 あっさり請け負ってしまったコウタローは、家族に電話しなければなと思いながら、資料の山に目を移した。
 なぜか、昔に戻ったような気がしたのだった。




 何気に資料整理が大の得意であったコウタローが、資料として残されている三国志関係の文献から、孔明の考え方や得意とした手法について記述のあるものを抜粋してまとめ始める。さすが元探偵。
 こちらも昔取った杵柄か。情報処理に優れるながみも、的確に資料を整理、分類していく。
 GENZにしても、この手の作業力には定評がある。平均的な作業能力をもって必要となる時間を考えればごくごく短時間で、文献の調査は終わらせる事ができた。

 ……だが、真の敵はその後に待ち受けていた。

「お、おわんねー」
「何だこれなんでこんなに長いんだ」
「いつまでやったら終わるんだろうこれ」

 文献を調べる際にはスキルが高い事で時間を大幅に短縮できたが、電源ゲームではそうも言っていられない。
 資料の要点を読み解く技術がなくてもゲーム内の課題を達成できればクリア可能であり、電源ゲームはクリアによって状況を進行させるのである。
 三国志しばりがあるお陰でジャンルこそごく限られたものではあったが、電源ゲーム1本から特定の情報を探し出して抜き出すのは、書籍や辞書などとは比較にならない労力を要し、これが今回の作戦において最大の壁となるのは明白だった。
 それはもう、戦いと呼んで良いものだったかもしれない。


 ゲームごとの特性に合わせた対処、フラグによる内容分岐に対応するための繰り返しプレイ、そしてとにかく難易度との戦い。
 攻略法を使うとか使わないとかそういう問題以前に、ひたすら長いゲームとの戦いが、そこには待っていた。

「ねーGENZ君、このゲームってわざわざ調べないといけないほどクーリンに詳しいの?」
「わからん。わからないからやってる」
「……そうかー」





 戦いは夜を徹して行われた。朝がやってくれば皆仕事があるからと部屋を出たが、また夜になると全員が集まって再び作業に取り掛かった。
 一日で終わらなければ二日、二日でダメなら三日、といった具合である。
 ただでさえ日頃の政務で疲弊しているGENZは、睡眠不足がさらに目立ち、顔色の悪さに誰もが顔をしかめる程までに憔悴し始めていた。
 勿論それはながみにしてもコウタローにしても同じ事なのだが、そこはそれ。家庭のある男は強く、表情には疲労を出さなかったのだから立派である。

「ギギギ」
「嫉妬に狂ってる暇があったら次やってください。……なんで趙雲が女の子になってるんだこれ」
「名前に子って付いてるからじゃないですか。小野妹子みたいに」
「えー」

 ここまできたら意地もあったのだろう。3人は貴重な睡眠時間を削りながら毎夜三国志ゲーを攻略し続けた。
 それでも仕事を疎かにしなかったのは見事と言う他ないが、その先に何が待っているのかなど、彼らは考えもしなかった。
 否、考えないようにしていたのかもしれない。






「ハハハ、ハハハハハハ!!」
「ど、どうしたんだながみ君!?」
「『何か困った事があった時はこの袋を開けなさい。きっと役に立つはずです』!!!1」

 最初に壊れたのはながみだった。
 突然笑い出すと、なにやら興奮した面持ちで孔明の一台詞を読み上げる。
 味方の行く先に待ち受ける困難を予め想定し、それを乗り越えるための策を与える。
 それは孔明の先見の明と優れた知略を示す話であって、取り立てて笑うところではない、はずだったのだが。

「うひひひひ、クーリンガンおもしれー!」
「だ、ダメだ! 何がツボに入ったのかは分からんがながみ君が壊れた!!」
「これは寝かせるしかないな……」

 どういうわけか拍手喝采、しかもなぜか孔明でなくクーリンガンを絶賛するながみ。
 孔明イコールクーリンガンなので間違ってはいないのだが、彼を褒めてどうするという話もである。
 ひとしきり大爆笑した後倒れたながみは、名誉の戦死扱いで自宅に帰される事になった。
 ながみは勇敢に戦ったが、力及ばず敗れ去ったのだ。その戦いぶりを戦友二人は忘れる事はなく、そしてGENZはながみ家のお嫁さんにとても恨まれたという。
 


「やっぱ、『国内の政治、いわゆる内政に力を注いでた人だ』っていう説も根強いな」
「そうですね」

 粛々と作業を続ける二人。ゲームが作業化するというのはとてもとても悲しい事であったが、元来楽しむ目的で始めた事ではないのである。ここは我慢のしどころであった。
 毎朝早くに出仕してひたすら国政を片付け、とりわけ藩国内失業率の上昇に頭を悩ませながらも、三国志ゲーの山と戦い続けるGENZ。
 戦略系ゲームで諜報戦をしかけ、アクションゲームでひたすら雑兵をなぎ倒し続け、電源ゲーム内でだけなら伝説になるほどの殺戮者と成り果てた彼は、
或いはこの時、彼の精神は狂乱に近い状態にあったのかもしれない。現実の殺戮者が心を蝕まれているのと同じように。
(勿論の話、単に疲労の蓄積と閉塞した環境によって精神がハイになっているだけ、というのが真実ではあるのだろうが)

「ごめん、俺、もうここまでみたいです……」
「夫の人ーッ!!」
「アプロー、俺は…………(ガクリ)」

 ついにコウタローも戦死である。彼は死力をつくして戦ったが、後残りソフト数4本というところで遂に矢折れ力尽き、
 哀れ部屋の片隅にある布団へと沈んで行く彼に、GENZは敬礼を贈って涙を流した。
 ついでにその際、GENZがプレイ中だった戦略SLGにて、オリジナル武将として作成した『コウタロー・鍋山』という武将も討ち取られて戦死しており
 タイミングの同期具合が名状しがたい縁起の悪さを感じさせたという。





 最後に残されたGENZは、疲労と緊張で一杯一杯になりながらも必死に攻略を続けていた。
 残るソフトは後2本。アクションゲームとダンスゲームである。何でダンスゲームなんかを最後に残したのかと憤るGENZだったが、割り当てを自分で決めた事を思い出して、怒るのをやめた。
 既に肉体精神ともに限界まで来ており、攻略時にミスを犯してやり直しを強いられる事も増えていたが、それでも何とかクリアを重ねて行く。
 自分が死んでも気にしなくていいゲームは楽だなあと、ここ数日で一体何回考えたかも思い出せない事をまた考えた。そして、最後のボスを一騎打ちで下す。ゲージ消費型最終奥義の発動によって死体を操る妖術を使った孔明を見て、

「あ、クーリンガンがいる」

 と思った瞬間にゲームはクリアされ、彼らの戦いはひとまず幕を下ろした。



「それで結局、何が分かったんですか?」
「……えーと」

 後日、配下の人間に今回の成果を尋ねられたGENZはだがしかし、自分と相手を納得させる事の出来る回答を持っていない事に気づいた。
 なんとなくノリで頑張ってはみたし、それはそれで盛り上がったから楽しかったような気がしないでもないが、
大事なプライベートな時間を費やし、作業終了直後には貴重すぎた休暇1日を使って回復に努めなければいけなかったことについては、考えるのをやめたいというのが本音だった。
 繰り返しになるが、これだけやって、政務に悪影響を出さずに済ませる事ができたのは大したものである。

「ただ、内政の達人って事は内政崩しの達人って事でもある。
 クーリンガンがそういう手をもし使うというなら、やっぱり国内環境をより安定させなければ!」
「結局、そうなるわけですか」
「ええ。というわけで早速、失業対策を……。今、失業率は何%になりました?」
「50%って所ですね。ここからが勝負どころです」
「よーしよし、何とかしましょう」
 果たして今回の戦いで得られた物があるのかどうか、それは本人達にもよく判らない事ではあったが。
 三人の間で、奇妙な連帯感が生まれていた事については、はっきりと得られた大切なものであったのかもしれない。

 そして、GENZがながみとコウタローのお嫁さんから買った恨みも、はっきりと得られた物であったのだろう。大切ではないが。
文章:赤峯 イラスト:獅進、ながみゆきと