「あのー、更衣室作るとかどうでしょう?」
 盛大なお祭りをやろう、という話になった時、玲夢がそんな提案をした。
「更衣室?」
「えーと、室というか、おっきいテントとかでもいいんですけど…それで、希望者に浴衣を配って、着替えていただくとか」
「ほー、浴衣、浴衣イイネ」
 それまで、「まああれだ何でもいいよ」などと言いながら、会議そっちのけで机に突っ伏して惰眠を貪る体制に入っていた雨霧が、浴衣という言葉にぴくりと反応して顔を上げた。
「それやろう」
「それやろう、って姐さん…国民と来国者に配るほどの浴衣を作る資金がどこから出ると…」
 鷹院の現実的な言葉に、雨霧はしばし上を見上げて考えた後、首を傾げながら一言。
「藩王のポケットマネー?」
「…それは国の資金から出るってことでは…」
「まあいいじゃん!どのみち稼ぐためにやるものなんだから、使う金は惜しむなよ!」
 わはははは、と笑いながら身を起こし、隣に座っている鷹院の肩をばしばし叩く。かなり痛そうである。
「…いいんですか、藩王?」
「うーん、いいんじゃないですか。それくらい何とかなるでしょう、戦争するよりはよっぽど安いですよ」
 真神の問いかけに、微笑みながら答える藩王GENZ。「何より、姐さん止めても止まらないし」とは、心の中で付け足した。

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「浴衣コンテストとかもいいよね〜」
「いいですね!この際男性もウィッグつけて参加とかいいですねっ!」
「いやーそれならいっそ男は女装コンテストとか」
「女装!やっぱりひらひらのふわふわですか!」
「そりゃ当然ひらひらのふわふわでしょ〜」
 突貫で設置されていく更衣用テントを眺めながら、布を張って作った休憩用の影の下で、雨霧と麗論が勝手に盛り上がっている。二人の会話を聞きながら、何を想像したのか山前が顔を赤らめ「女装…」と呟いているのを見て、この国は大丈夫なんだろうかと沙崎はちょっとだけ思った。本当にちょっとだけだったので、一瞬後には「まあ今更か」と考えを放棄した。
「よ、っと…こんなもんでいいかな?」
「あ、そこもうちょっと左でお願いしますー」
 サイボーグ兵がテントを張るのを、整備士達が指示を出して補佐している。本当は兵以外の国民も手伝いを申し出ていたが、「今回はゆっくり遊んでもらうのが目的だから」と、国の上層に関わる者達を総動員しての設置作業だった。
 そうすりゃタダで働かせられるし、とは雨霧の台詞である。
「えーと、こっち?」
「ナナシさんーそっち右ー」
「うーん、そろそろ疲れてきてるみたいだし、ひと段落したら休憩にしようか」
 ナナシともえぎのやり取りを聞いて、持ってきた飲み物を取り出す松本。視線を感じてそちらを見れば、ジンが暑さにぼんやりした顔で松本を眺めていた。
「サボってないで手伝ってこいよー」
「パイロットだから、サイボーグより体力ないし。お前こそ手伝ったらどうですか摂政様」
「俺だってパイロットじゃー!」
 腐れ縁ながらの言い合いを繰り広げる二人の後ろで、ムラカミタクミとyotuoが手際よくおやつをより分け始め…た先から雨霧につまみ食いされ、困った顔をしている。
「あの…えっと、雨霧摂政…」
「キニスルナ」
「いやその…気にするなと言われても…」
 雨霧の扱いに慣れていない二人を見かねて、どいが歩み寄り声をかける。
「姐さん、あんまり食べると太…」
 言い終わらないうちに投げつけられたタワシがクリーンヒットし、どいは砂の海に沈んだ。
「カワウソ君、そっちもうちょっと引っ張って」
「こうですか?」
 そんな後方での騒ぎを尻目に、サイボーグ兵達は真面目に設置作業を進めている。
 プロメテウス(仮)の言葉にカワウソがロープをぐいと引っ張るが、プロメテウス(仮)はうーんと悩むように唸った。
「もっとこう、一気にぐいーっと!」
 言いながら、見本を見せるようにプロメテウス(仮)が引っ張ったロープは、半ばあたりでぶちっと素敵な音を上げて、切れた。
「あ」
「あ、って、ちょっ…!」
「たーおーれーるーぞー」
「倒れる原因作った人が何を一番落ち着いてるんですかぎゃああああああああ!」
 かくして、完成まであと一息というところまできていたテントは、周りに居たサイボーグ兵を巻き込んでべしゃりと潰れた。
「…じゃ、また最初からヨロシク」
 テントの布の下から這い出したサイボーグ兵達が最初に見たのは、あっけらかんとそう言いながら、どいを砂に埋めて遊んでいる雨霧の姿だった。
 そんな摂政の言葉に誰も逆らわず作業を再開するあたり、この国の人選が正しいのか間違っているのかは、皆様のご想像にお任せすることにする。

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 そんなこんなで、様々な準備を経て、祭りの開催は訪れた。
 日中にも数々のイベントが用意され盛り上がりを見せた。中にはゲル祭りなどという、一部に強烈なトラウマを植えつけたものもあったが、そういうごく一部を除いては概ね盛況のうちに終わった。
 だが、祭りといえばこれは譲れないと最も力を入れられたのは、夜だった。
 盛大な数の屋台が立ち並び、一大イベントでもある打ち上げ花火を心待ちにしている多くの人々が、絶え間ない川のごとく行き交っている。
 ちなみに、いくら一大イベントとはいえ、「んじゃ打ち上げ花火百万発で」などという暴虐摂政の言葉はさすがに却下されたことを追記しておく。
「ねえ、コータロー、見て」
 祭りの喧騒の最中、その青年がくいと袖を引っ張られたのは、次は何を食べようかと思案していた時だった。
「ん、どうしたアプロー、何か食べたいものあったか?」
 コータロー、と呼ばれた青年が振り返ると、彼がアプローと呼んだ金髪の少女は、食べ物の屋台からは明後日の方向を見つめていた。
「浴衣の貸し出しだって。ねえ、着てもいい?」
「あ、ああ、別にいいけど…」
 しかし着替える場所は大丈夫なのかと、アプローの視線の先を追えば、どうやら更衣用に提供されているらしい大きなテントがあった。“浴衣貸し出しします”“こちら女性用”と書かれた看板が掲げられ、それよりも目立つくらい大きな文字で、“覗き見は問答無用で以下略”と書かれている看板もある。
 なんなんだ以下略って、とよくよく見れば、女性用のテントの周りはかなりの厳重な警備で固められていた。少し離れた位置にあるのはどうやら男性用らしいが、そちらはかなりの放置プレイである。
 これなら心配は必要なさそう…というか、これでも覗き見しようとする者がいたとしたらそっちのほうが心配だ、とコータローは真剣に思った。
「じゃあ、ちょっと着替えてくるから。待っててね?」
「うん、ちゃんと待ってるよ」
 コータローが頷くと、アプローは安心したように微笑み、更衣用のテントへ入って行った。
 さてどうやって時間を潰そうかと周りを見渡すと、金魚すくいの屋台が目に入った。どうやって砂漠の真ん中まで運んだのか謎だが、確かに金魚が泳いでいた。
 それを真剣に見つめる、猫が一匹。いや、二本足で立ち、人間と同じように服を着ているその姿は、猫妖精だった。額に三日月の模様が特徴的なその猫妖精は、金魚が目の前で右へ左へ泳ぎ回るのを目で追いかけては、尻尾をぴくぴくと震わせている。
 今にも飛び掛かりそうな雰囲気に、コータローは思わずぷっと吹き出して笑い、そっと近づいてその横にしゃがみ込んだ。
「金魚、欲しいのか?」
「にゃっ!?」
 突然声をかけられ、飛び上がらんばかりに驚いた猫妖精は、コータローをまじまじと見上げる。
「金魚。欲しい?」
 もう一度尋ねると、猫妖精は金魚に視線を戻し、しょんぼりとうなだれた。
「欲しい…にゃ。でも、手が届きにくいし、うまくすくえないにゃ」
「よっし、おっちゃん!俺も一回!」
「あいよ、まいどっ!」
 プラスチックの輪に紙を張ったものを受け取り、猫妖精が緊張の面持ちで見守る中、コータローは数匹の金魚をひょいひょいと器へすくい入れていった。最後に大きな出目金を狙って、紙が破れてしまった時には、器の中は金魚が窮屈すぎて少しかわいそうなほどになっていた。
「兄ちゃん上手いねぇ〜、もう好きなの持ってっていいよ!」
「へへ、サンキュっ」
 器に入っていた金魚を一旦逃がしてやった後、それをほけーっと見つめていた猫妖精の肩を、コータローは優しく叩いた。
「ほら、好きなの選んでいいって」
「に、にゃ?」
 何を言われているかわからない様子で、猫妖精は悠々と泳ぐ金魚と、微笑むコータローを見比べた。
「でも、俺すくえてないにゃ」
「どうせ俺、持って帰ってやれないからさ。俺の代わりに、大事にしてやってくれよ」
 コータローの言葉に、猫妖精はぱっと顔を輝かせ、何度も礼を言いながら何匹かの金魚を選んだ。透明で小さな袋に入れてもらい、大事そうにそれを受け取る。
「ありがとうにゃ!俺、絶対、大事にするにゃ!」
 そう言って笑う猫妖精に、そういえばお互いの名前すら知らなかったなと思った時、喧騒の中に一際大きな声が響いた。
「コータロー!」という少女の声と。
「冴月さーん!」という青年の声。
 コータローと猫妖精は、それぞれ己を呼ぶ声に振り向いた。
 コータローを見つけたアプローは、手を振りながら駆け寄って、コータローの袖をきゅっと掴む。
「もう、ちゃんと待ってるって言ったのに。探したじゃない」
 ちょっと拗ねたような言い方をしているが、浴衣を着て機嫌が良いらしく、微笑んだその顔を見ればさして怒ってはいないことがわかる。ごめん、と素直に謝れば、アプローも素直に頷いてくれた。
「いたいた、冴月さん。そろそろ花火の打ち上げを始めるからって、皆集まってますよ」
「にゃ、もうそんな時間にゃ!?キギさん、わざわざごめんにゃ」
 一方、猫妖精のほうも、迎えが来たらしい。穏やかな微笑みを浮かべる青年に促され、人ごみに紛れてしまう前に、猫妖精はコータローを振り返った。
「金魚、本当にありがとうにゃ!花火、ばっちり上げるから、見ていってくれにゃ!」
「外からいらした方ですね。楽しんでいってくださいね!」
 猫妖精と青年の姿が、人の流れの中に消えるのを見送って、コータローとアプローは顔を見合わせた。
「花火だって。よく見える場所探そうか」
「うん」
 頷いて、アプローはそっとコータローの指に自分のそれを絡ませた。気づいて視線を逸らし、顔を赤くしたコータローも、そっとアプローの手を握り返した。

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「俺の予想だとさー」
 所変わって、打ち上げ花火の発射場所。
 結局祭りの最後まで駆り出された無名騎士藩国上層部の面々が居並ぶその場所で、静はぽつりと呟いた。
「こういうのはほら、こう…打ち上げようとしたら、筒が倒れて、爆発して、誘爆して、どーん、みたいな」
「不吉なこと言わないでくださ…あーでもそれはあるかも。どーん」
「あったら困るんですけどー!」
 静と一緒にどーんどーん言い出した九軒に、真神がツッコミを入れるが、内心この国なら可能性はあると思った。入るべき国を間違えただろうか。夜空を見上げてみるが、輝く星はそこに在るだけで、何も答えてはくれなかった。
「準備完了しましたーっ!」
 元気に走り回っていた自称宇宙忍者・空紅の声に、集まった皆が配置に着く。
「よーっし、盛大にぱーっといくぞー!」
 最初に花火に火をつけたのは、プロメテウス(仮)だった。次々に打ち上げるために、すぐ隣の筒へと移動しようと動く。
 動いて、点火した筒を蹴倒した。
「あ」
「あ、って、ちょっ…!」
「…ばーくーはーつーすーるーぞー」
「やっぱりこういうオチかよぎゃあああああああああああああ!!」

 …その夜。
 無名騎士藩国の祭りの最後を飾った花火は、地平線が輝くかのような美しいものだったという。
絵:麗論 文:ナナシ

L:お祭り = {
 t:名称 = お祭り(イベント)
 t:要点 = お祭り,アプローとコータロー
 t:周辺環境 = 色々な店,見物人
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *お祭りのイベントカテゴリ = 藩国イベントとして扱う。
  *お祭りの位置づけ = 特殊イベントとして扱う。
  *このイベントを取った藩国は、国内イベントでお祭りを行うことができ、それに応じて最大250億までの報酬を受け取ることができる。
 }
 t:→次のアイドレス = アプロー・鍋山と夫の人(ACE),宇宙開発センター(施設),カール・ドラケン(ACE),ドラケンに抱き上げられてくるくる(イベント),キスの思い出(イベント)