1、現在の燃料事情

 現在、藩国で消費されている燃料の、そのほとんどはI=Dによる消費、いわば戦争による消費である。もちろん生活用の燃料もそれなりに供給・備蓄されてはいるものの、ほとんどは戦争用の燃料として消えていく。
 現在わが国には共和国共通のI=Dであるアメショーのほか、独自の技術で開発した黒曜という戦車も運用している。戦時はそれらにパイロットとコパイロットを搭乗させ戦争へと赴く。それらを動かすのに必要な燃料は、相当なものとなる。それ以外にもサイボーグ歩兵達も燃料を消費するなどから、この国では燃料は国を守る上での命綱であるといえるだろう。



2、燃料生産地の開拓

 そんな燃料を手に入れるため、国家プロジェクトとして掲げられたのが燃料生産地の開拓である。
 だが、気候が一定している国ならいざ知らず、国の大半をさばくが占め、いつふくかもわからない砂嵐を警戒するこの国において、それは一歩間違えれば死につながりかねない危険な任務であるといえた。
 さらに悪いことに、燃料として最も適しているといわれる油田が存在する場所が、人里はなれた自然の真っ只中という過酷な環境に存在するという事実がプロジェクトの難易度をさらに上げる結果となった。これに挑む国民たちは、まずそれらをどう克服するか、そこに焦点を絞った対応を迫られることとなったのだった。
 ちなみに、油田のある場所とは、藩国の史書室の奥深くに眠っていた歴史編纂の書第8章「藩国開拓期 熱砂の海を越えて」に記されている伝説の熱砂地獄の先にある人どころかありとあらゆる生物が寄り付かないといわれる地の奥深くであると言われている……らしい。



3、燃料生産地の設備

 燃料生産地は主に3つの部位に分けられる。つまり燃料の素となる物を採掘する場所と、それを使って燃料を作る場所、そしてそれらの作業を行う作業員が住む居住施設だ。
 ではまず、そのうちの一つ、燃料を作る場所―――精錬所について説明しよう。
 精錬所とは、油田に隣接するように設置された巨大な精錬施設のことだ。そこでは毎日膨大な量の原油を、液化石油ガス(LPG)、ガソリン、灯油、ジェット燃料油、軽油、重油などにそれぞれ精製している。
 石油の精製に使われる設備は、まず蒸留分解を行うための機械である常圧蒸留装置(トッパー)や重油を精製するのに使う減圧蒸留装置と呼ばれる装置を使う。
 次に蒸留分解で出来たものを分解装置にかけ、それぞれの燃料へと分けていく。その工程の中で、不純物質を取り除くには、水素を混入させての水素化精製が一般的だといわれている。
 次に居住用のスペースだが、これが油田の中で半数を占めているといっても過言ではないだろう。作業員は一年の半分からそのほとんどを油田施設の中で過ごす。そうなると、彼らの生活を支えるべき水や電気などのインフラのための設備が必要となる。それも数中や数百ではすまない人間がいるのだ。その規模は言わずもがなであろう。ちなみに、一部ではあるもののレクリエーション用の設備も完備されており、作業員が快適に過ごせるような工夫は施されているという。



4、物語としてみる「燃料生産地」

 ”ぼくのゆめは、いつかりぞくになって、ゆでんではたらくおとうさんが、もっとたのしくはたらけるようにしてあげることです。”

 藩国立小学校に張ってあった作文より抜粋 62407002



 砂漠というものは、一般的に考えられているほどべつに熱いばかりというわけでもなく、雨が降らないというわけでもない。
 ただ熱いのはそこに熱を下げる役割を果たす木々が無いだけで、その木が育つにも土壌が水を吸いやすく、いくら雨が降ったところでそのほとんどが地表部分に留まらないだけで……という循環の末に砂漠というものは成り立っているのである。
 だが、今彼らがいる場所は、まさに砂漠というものをイメージすればまさにこれのことだろうといわんばかりの場所であった……。
「にゅぁぁぁあああああ……」
 今回油田の開発と施設の開発の手伝いとして委員会から派遣された一匹の猫がいた、名前を冴月といい、額の三日月の形をした模様がトレードマークの猫整備士であった。
 現在彼は砂漠の中にぽつんと存在していた小さなオアシス、そのほとりに生えている木……というにはいささか貧弱であるといえるが、それでもこの国でいえばまぁ立派な木であるといえる木の幹にぐったりとよっかかっていた。
「暑いにゃぁ……死にそうだにゃぁ……このままじゃ、猫の姿焼きまっしぐらだにゃぁ……」
 そういって、ちょっと美味しそうだと思った自分が情けなくて、よよと泣いた。
「なにサボってんですか〜……さっさと作業終わらせちゃいましょうよ〜」
 そこに現れたのは、今回正式に油田開発を任されていた麗論であった。先ほどまで作業していたのだろう、まとめられたツインテールからほつれた髪が汗で頬に張り付いて、ちょっと色っぽかった。
「うにゃぁ……この暑さは猫には拷問だにゃぁ」
「そんなふかふかじゃぁしょうがないでしょうね……なんならバリカンで刈りますか?」
「それはますますごめんだにゃっ!」
「はいはい、それじゃあささと作業に取り掛かりますよ〜」
 ぶつぶつ文句を言う冴月を頭に載せて、麗論は暑さでうだる砂漠の中を歩いていった。



「暑いな」
「そうですね」
「……暑いなぁ」
「……そうですねぇ」
「……あつ」
「いいかげん起き上がりましょうよ鷹院さん」
 その言葉に、鷹院はようやく自分が砂漠の上に寝そべっていることに気が付いた。
 いや、たぶん倒れていたというのが正解なのだろう。
 顔を上げると暑さに同じくうんざりとしている同僚であるサイボーグ戦車兵のナナシが不機嫌そうに空を仰いでいた。
「……んで、俺ら何しにきてんだっけ?」
「静さんの手伝いですよ……にしても、暑いですよね」
「……そうか、俺ら油田作るのに人手がいるからって……つれてこられたんだったなぁ」
「そこまで覚えてんならさっさと行きましょう。とまってると余計暑いですから」
 鷹院の肩を抱くように抱え起こして、砂を払う。盛大に砂埃が舞った。
「……にしても、えらい暑さだなぁ……」
「ええ、文献にしか残ってないと思われていた土地ですから……」
「……ナナシ君あんなもんが見つけなけりゃこんなとこ来る必要も無かったのに」
「……その文句も聞き飽きましたよ」
 そう、振り返ること一週間前。史書室を整理していたときのことである。
 その日は藩王と摂政の二人も暇だったこともあって、4人で史書編纂室の奥深くの本棚の整理から開始したのだった。
 その奥の本棚とはこの国の建国にかかわった人たちが残した資料やメモなどが保管されており、折角の機会だからそれらの確認といらない物の処分をしちゃいましょうとの事だった。
 そこで見つかったのか何十冊にも及ぶ「藩国開拓期」と書かれた書物だった。まさかそれが今回の一大プロジェクトの幕開けだなんて事を、そのとき誰が予想出来ただろうか……。



「なんだいなんだい、元気ないよー鷹院さ〜ん!」
 砂漠に響かんばかりのそんな大声で、二人の物思いは中断された。
 暑さでぐったりする鷹院の肩を思いっきり後ろから叩いてきたのはプロメテウス(仮)。同じサイボーグ歩兵として、そして戦車兵として戦場を共に駆け回る仲間である。
「そうですよ、さっさと作業しちゃいましょう」
 その後ろから同じサイボーグ戦車兵のカワウソが歩いてきた。
「それにこの暑さに日照りじゃ、僕達の活動限界もあと数時間ってとこですね」
「へ、なにそれ?」
 頭上に「?」を浮かべるナナシ。
「……あのですね、僕達サイボーグ戦車兵のサイボーグ部品はほとんどが鉄ですよ?鉄の熱伝導率を馬鹿にしていたらそのうち接合部分をやけどだらけにする羽目になるますよ?」
 呆れ顔で説明するカワウソ。
「まぁ、それを防止するために一応冷却装置も組み込まれて入るらしいが、それでも限界があるからな。頻繁に休みを取らんといかんのだよ」
 プロメテウス(仮)も苦笑いを浮かべて説明を加える。
 それを聞く鷹院とナナシは顔面蒼白にして互いの顔を見合わせていた。



「にーやん俺帰る」
「こらこら、まだここに来て10分も経ってないぞ?」
 机とちっこいコーヒーメーカー、それとかなり無骨なせんべいが目の前あるだけのプレハブ小屋にいるのは、国の摂政である雨霧緋龍と沙崎絢市。今回二人は作業の監視を藩王から命じられてきていたのだった。
 もっとも、それも開始早々暑さとだるさでいじけだした雨霧の職権乱用的命令でプレハブ小屋でのモニター監視に変わっていた。
「暑い〜」
「空調はばっちり正常に作動中」
「気分的に暑い」
「なんだそりゃ」
「だいたいだね、こんなとこ監視していたってさぁ、別にどうということ無いじゃん。むしろ皆真面目じゃん、俺たちのほうが不真面目じゃん」
「あのなぁ…………まぁ、一応警戒担当でもあるわけだし……」
 今回は、大型の砂嵐の到来と、万が一何かしらの武力トラブルが起こったときのためにと黒曜も2機スタンバイしていた。今はコパイロットたちがセンサーによる広域索敵を行っているところだろう。
「あ〜暑い暑い……おっと、摂政様じゃないですか」
 入ってきたのは、この油田の建設とその後の運用と維持を任されることとなった作業員だった。
 首に巻いたタオルでごしごし顔を拭いている。作業服を着てはいるが、そこからはみ出さんばかりに盛り上がった筋肉が印象的だった。
「あぁ、俺らの仕事振りの視察かい?」
 涼しいところでぼへ〜っとモニターを見ているだけの二人を見ても何も言わないあたり、なかなか人が出来ているといえる。
「ええまぁ。あなたは?」
「ああ、俺はここら辺の施設の建設の指揮を取ってるもんだ。にしてもなんだな、こう暑いと駄目だな。機械は直ぐにへばっちまう」
 がっはっはと笑いながら、机の上においてあるやかんの水を、注ぎ口から直接飲む。
「そういやなんだっけ?あんたらの知り合いの……サイボーグ兵の……あのタバコ吸ってる兄ちゃん」
「ああ、ナナシ君かな?」
「そうそう。そいつなんてさっき関節が痛い痛いって言って慌てて医務室に運ばれていっちまったぞ、ありゃやけどだな」
「あらら……そりゃ大変だなぁ」
「やっぱり大変ですか、こういう場所で働くって言うのは」
 すでに目の前の男性に興味をなくしたのか、モニターに写る猫整備士を見て「ぬこはよい……ぬこぬこ」といっている雨霧をほっといて、沙崎は砕けた笑みを浮かべてコップに注いだコーヒーを勧めた。
 それを聞いて、コーヒーを受け取った男性は近くにあったパイプ椅子を引き寄せて腰掛ける。椅子の関節部が鈍い軋みをあげる
「なあにいちゃん。あんた家族はいるかい?」
「え?いえ……」
「そうか……いやね、じつは俺には息子が一人いてね……今は首都で俺のかみさんと暮らしてんだ」
「そうなんですか……お子さんはおいくつで?」
「今年で小学3年生だったかな……あ〜……最後に会ったのはあいつが幼稚園の卒園式だったからなぁ」
「今が一番可愛い時期ですね」
「おうよ、俺の息子は世界で一番かわいいぜ」
 へへへ、と恥ずかしさをごまかすように鼻をこする。
「そんでな、息子がこの前将来の夢って言う題の作文を書いたらしいんだが……あいつなんて書いたと思う?」
「……なんと?」
「僕は将来吏族になって、油田で働くお父さんが楽しく働けるようにしてあげますって……へへへ、嬉しい限りじゃねーかおい!」
 心底嬉しそうにばんばんと沙崎の肩を叩く。
「たたた……随分とご立派な息子さんをお持ちになられましたね」
「おうよ……そんでよ、息子とかみさんのことを思うとよ、こう……なんつうか、俺が頑張んなきゃなって思うんだよ……だから、大変なんて事はなんもねえ。そりゃきつい仕事は多いが、それくらいなんてことねーってもんよ」
「……なるほど、いいお話が聞けました」
「な〜に、これくらいそこいらにごろごろ転がってるみてーな話だ……おっと、そろそろサボってる奴らをどやしにいかねーと。そんじゃコーヒーご馳走さん」
 男性は人懐っこい笑みを浮かべてコーヒーを飲み干すと、慌しく部屋から出て行った。
「……さて、俺らも仕事をしますか」
 そういって振り向くと、机に突っ伏して雨霧が健やかに寝息を立てていた。
L:燃料生産地 = {
 t:名称 = 燃料生産地(施設)
 t:要点 = 油田,精錬所
 t:周辺環境 = 人里はなれた自然
 t:評価 = なし
 t:特殊 = なし
  *燃料生産地の施設カテゴリ = 藩国施設として扱う。
  *毎ターン燃料+15万tされる。
 }
 t:→次のアイドレス = 燃料精錬所(施設),海軍兵站システム(技術),燃料気化爆弾(技術)