1、名パイロットのドラッガー化について

名パイロットでありながら、なぜ彼らがドラッガーなのかについては、深い理由がある。
 戦場というものは、我々が普段暮らす”日常”とかけ離れた、”非日常”とさえいえる空間である。
 そのような場所では、我々の常識というものはすべて覆されるといっても過言ではない。 命は軽く扱われ、人殺しが名誉を得て、偽善を語る者に明日は無い。
 そんな世界で暮らす者にとって、そこから彼らを救ってくれる数少ない手段として、薬物があるのだ。
 本来は精神を安定させたり、死の恐怖を忘れることで戦闘単位での一個体としての機能を果たさせる役目であったのだが、その行為は瞬く間に軍隊に薬物中毒者を増やす結果となった。
 だが、ここで”日常”を生きるものたちの想像の付かない結果がもたらされる事となる。
 薬物中毒者―――ドラッガーのパイロット部隊が戦果を挙げはじめたのだ。
 その結果、軍も彼らを認め、そして彼らはドラッガーでありながらも名パイロットとして様々な戦場へと赴くこととなるのだった。



2、この国においての名パイロットの役割

 彼ら名パイロットが、同様にI=Dパイロットである戦車兵と区別されているのは、彼らの戦闘スタイルにある。
 戦車兵は己の力と経験を持って戦場を蹂躙するのに対し、彼ら名パイロットはドラッグを使用してのトリッキーな戦闘スタイルが特徴的である。
 ドラッガーの使用するドラッグは、種類によって様々な効果があり、その都度使用するドラッグを変えることで様々な戦場での対応能力を向上させることが出来る。
 また、それ以外に特殊なドラッグを使って、一種のトリップ状態になっての短期未来予知(研究者はこれを予知夢と呼んでいる)が行えるなど、その戦闘スタイルは独特であるといえるだろう。



3、物語としての「名パイロット」

 ”ドラッガーが怖いなら、ドラッガーになればいいんだ”

 ドラッガーにトラウマを持つキギ氏、目をぐるぐるにして呟く。92407002



 広々としたそこは、藩国の空の玄関口として知られるオブシディアン飛行場。
 その日、政庁からの第一種特務命令により全ての飛行機に離発着が制限され、政庁印で様々な機材が滑走路へと運び込まれていた。
 どの作業員も黙々と作業している中、休憩所と書かれたテントの下に人の姿があった
「……あ〜、だりぃ……つうかうぜえ」
「そう言うおめえが一番うぜえ」
「……」
 椅子にぐだっと座った男を筆頭に、3人とも周りのことなどお構い無しになんともだるそうにしていた。
「あ〜?そう言うお前のイヤホンからもれる音もうぜーんだよ」
「じゃあ聞かなきゃいいだろうが、このボケが」
「……」
 言い争いをしているのは今回の大型I=Dの試作機の試験飛行と模擬戦闘訓練を担当しているパイロットである。
「大体だな、なんで俺様がてめえとおんなじ機体に乗らなきゃなんねーんだよ」
「知るか、そんなもんお偉いさんにでも聞くんだな……」
「……そもそもマーサがあんな言い争いをするせい、自業自得」
「ああくそ、胸糞わりーぜ」
 マーサと呼ばれた青年は、がしがしと頭をかいて椅子に座りなおす。彼は今回メインパイロットを務める名パイロットだった。
 その反対側でイヤホンを耳につけて音楽を聴いているのは今回主に駆動系と武装関連のオペレートを担当するギル。その二人に挟まれる形で真ん中に座っているのは、各パイロットの心身状態の計測と管制室とのやり取りを担当するリンク。
 3人はこんななりでもこの国を代表するほどの腕前を持つ名パイロットであった。
「くそ……どいつもこいつも胸糞わりーぜ」
 見上げた空は、嫌味なくらいに晴れ渡っていた。



 そもそも、今回の強行テストには深い……かどうかは別としてわけがあった。
 それは3日前、政庁通りにある居酒屋でのことであった。
「あんだとこらぁっ!」
「あぁ?やんのかこらぁ!」
 静かだった居酒屋に響く男達の怒号に客がなんだなんだと振り向く。
 その視線の先には若い戦車兵の集団と、3人の名パイロットの姿があった。
「てめえもう一度いってみろ!」
「ああいってやるよ、手前らなんてしょせん薬やんなきゃへなちょこながきんちょなんだよ!」
「てめえ……言わせておけば!」
 一食触発の雰囲気の中、盛大な音を響かせて開かれた入り口のドアをみて、その言い争いは急に静かになった。
「おんやぁ?こんな楽しい酒の席でなにを揉めてるのかなぁ〜?」
 そこに姿を現したのはこの国の摂政である雨霧緋龍、それとその副官である鷹院碧葵に、同じ戦車兵仲間であるプロメテウス(仮)であった。
「こらこら、酒の席で何を揉めているんだ?」
「まあ、若いうちは喧嘩早い方が可愛がりがいがあるというもんだよ?」
 眉間に皺を寄せてため息をつく鷹院を、頬をぽりぽりとかきながらプロメテウスがなだめる。
「それで、なにがあったんだ?」
 既に酒の席について隣の客と旺盛な飲み比べを開始した雨霧を一瞥してから、鷹院は口を開いた。
「た、鷹院さん……いえですね、こいつらが最近生意気で……」
「んだとこら!」
「それには同意だなぁ」
「……(コクコク」
 戦車兵の言葉に食ってかかろうとしたパイロットの後ろに控えていた二人が言葉を挟む。
「手前らどっちの味方だよ!」
「俺はてめえの味方でもそいつらの味方でもねえ、俺は俺だ。文句あんのか?」
「……マーサに付き合う、いつもとばっちり。他人の振りをする、得策」
「て、手前ら……あとで覚えておけよ」
「あ〜……ようするに、気に食わないって事か?」
 鷹院が双方を見比べて、頭痛が酷くなる一方の頭を抱えて要約した。
 最近、若手の名パイロットと戦車兵の衝突は日を増すごとに激しくなっている。それはすでにナナシがレポートにまとめて藩王に提出している。
 だがこれといった解決策も無いまま、まぁ時が解決するだろうという猫らしい発送の下放置されていたのだった。
「大体だな、薬になんか頼る様な奴らに背中なんかまかせられっかよ!」
「俺らだって手前らみてえなひよっこパイロットなんかに守られるなんてまっぴらだぜ!」
「んだと!」
「やるかおらぁ!」
「あ〜……とりあえず落ち着けお前ら……」
 頭痛どころか立ちくらみすらしそうなくらいに精神ぐるぐる状態の鷹院であった。
 それをみて、プロメテウスは苦笑いを浮かべて助け舟を出した。
「そこまで言うなら。お前ら勝負してみないか?」
「「勝負?」」
「ああ、ちょうど名パイロットにはそろそろ試験的にロールアウトされる大型I=Dの試作機のテストをしてもらう。それと平行して戦車兵の模擬戦闘訓練も行う予定だから、ついでだ。まとめてやっちまおうってことだ」
「おいおいプロさん……いくらなんでもそんな横暴な」
「面白そうじゃん」
 いつの間にいたのか、雨霧がでかいグラスを片手に二人の後ろに立っていた。ちなみにその後方では飲み比べに負けたのだろう、顔を真っ赤にした男達が床に転がっていた。
「おっけーおっけー、許可は後で俺が藩王に言っておくから、プロさんは早速工場に手配しといて」
「ははは、即決だなぁ……了解、直ぐに行ってきます」
「あの、姐さん……いくらなんでも、そんな突然」
「いいじゃないの、面白そうだし」
 豪放磊落に笑って言い切る雨霧に、鷹院は頭痛とめまいでぶっ倒れた。



 そんなわけで、急遽決まったテスト飛行と模擬戦闘訓練も、そろそろ開始という段階に移っていた。
<こちら管制室。パイロットは応答してください>
「こっちらメインパイロットのマーサ。後ろのうぜー奴と根暗な奴含めて全員準備かんりょー」
「そう言うてめーは一々うるせえんだよ、頭に響くから黙ってろ」
「……パイロットのデータを管制室メインコンピュータとリンクします。ユーハブコントロール」
<アイハブコントロール。リンク接続を確認……オールシグナルグリーン。パイロット脈拍正常、脳波異常無し……では、薬品投与管の装着を開始してください>
「おほ、まってましたってね〜」
「だからうるせえ。黙ってやれ」
「……全員装着完了。薬品の投与を開始してください」
<こちら管制室。薬品の種類はタイプ・ホープ。リミットは1000。0300に警告が出ます>
「へいへい、ちゃっちゃとやっちまおうぜ〜」
「……」
「……薬品投与完了。各パイロットのモニタリングを引継ぎます。コントロールリターン。リンク接続解除を確認」
<こちら管制室、了解。滑走路の状況は良好。藩王から現場指揮権の委譲を受諾。これよりテスト飛行を開始します。イエロージャンパー、あなた達に全ての結果を委ねます。グッドラック>
「おうよ、安心して待ってなっ!」
「五月蝿え……エンジン出力安定。さっさと出ろ」
「バイタルサイン±0.5。誤差範囲内。全ステータス正常、リンク接続良好……出撃してください」
「おうよ。いっくぜえええええ!!!!」



 派手なエンジン音を響かせて空を舞う大型I=Dの試作機は、本当に試作機なのかと見まごうほどに正確な動きで規定された演習コースをクリアしていった。
「ふぁ〜、これなら中々見ものになりそうですね」
 演習の視察に訪れていたGENZは、空を舞うように飛ぶI=Dを見て感嘆のため息を漏らしていた。
「まあ、試作機とは言っても、仕上がりに関して言えば俺が太鼓判を押します。まず問題なく動きますよ」
「そうだにゃ、あれにかかればアウドムラだって一撃だにゃ!」
 頭に猫を載せた戦車兵は、今回大型I=Dの制作を補佐した静、その頭の上にいるのが今回の大型I=Dの設計・建造を担当した冴月である。
「それで……どれくらいいけると思います?」
 面白そうに口元をほころばせるGENZ。
「……むずかしいな。戦車兵達はI=Dでの戦闘経験こそ無いものの、その技術は本物だし、連携力で言えばパイロットよりも上だろう」
「でもでも、おいらの作った大型だって負けていないにゃ!」
 力説する冴月。
「こら、爪たてるな、痛いだろうが!」
「おお、すまんにゃ」
「そうですね……雨霧さん、今回のテスト……本当は何か目論見があったのではないですか?」
 そういわれた雨霧は、とぼけるようにニヤニヤと笑った。
「さぁ〜てね〜……まぁ、ああいう奴らは、一回派手に喧嘩させて、互いを認識させたほうが手っ取り早いと思っただけよ」
「……なるほど……要するに夕方の土手、一騎打ちをする番長同士、勝負の後に芽生える男の友情……といったところですか?」
「はっはっは、まぁそうなってくれれば御の字なんだけどね〜」
 雨霧はどこかまぶしそうな視線で、空を舞う大型I=Dを見守った。
「……ところで、何であれ空飛んでんですか?」
「ロボットが空を飛ぶのは男の浪漫だにゃ」
 きらきらと輝いた目で空を飛ぶI=Dを見る冴月、いやきっと目がぐるぐるしているのは気のせいだろう。
「いえあの……たしか、発注したのは対要塞戦・地上制圧戦用のはずでは……」
「まあ、試作機だ。問題は無い」
 同じようにうんうん頷く静。だが目がぐるぐるしているのはきっと光の加減とか……なんというか、そこら辺の事情だろう。
「あの……その……はい」
 結局納得してGENZは空を見上げた。心の中で今回のテストが無事に終わることを祈りつつ……。



 盛大な逆噴射で砂埃を巻き上げながら着地した大型I=Dは、脚部関節が上げる悲鳴をものともせずに流れるような動きで砂上を動き出した。
「ああくそ、何でこんなに動き鈍いんだよ!」
「うるせーよ、大型なんだから仕方ねーだろ」
「……」
 パイロット達はそれぞれ文句を言いながらも的確な操縦で砂上を駆け回る。
「っと、そろそろ模擬戦闘開始か……っち、武装はどんなだ!?」
「……メインレーザー2門にサブの小門レーザー4」
「はあ!?それだけかよ!!」
「まだこの子は試作型。武装面は開発中……それよりも、敵が来る」
「っち、数4……くそ、黒曜か……砲撃戦なら勝ち目もあるが……」
「馬鹿が、レーザーは砂埃でたやすくその威力は軽減される」
「はあ、それまじかよ!?」
「んなことくれーしってろボケ」
「んだとこらぁ!」
「……敵が来たよ」
「うるせえちゃッちゃと迎撃だ迎撃!」
「いちいち騒ぐな、頭に響く」
「……敵弾接近、回避したほうが」



 戦況は一方的だった。
 チームワークのまるでなっていない名パイロットの操る大型I=Dに、連携を駆使した組織戦による戦車兵の操る黒曜達が容赦なく襲い掛かる。
 徹底した遠距離砲撃による火力制圧によって身動きの取れない大型I=Dに、近接格闘仕様の黒曜たちが餌に群がるハイエナのごとく、大型I=Dの装甲を削っていく。
 戦局は一方的であった、そう、あの瞬間までは。



「だあくそ!これじゃどうしようもねえじゃねえか!!」
 真っ暗なコックピット、被弾率の上昇した大型I=Dは緊急修復モードに入り、必要最低限の電源を残してオフになっていた。
「しかたねーだろ、大体てめえが上手く回避できねーのが問題なんだよ」
「んだとこら!手前がもっとうまくレーザー撃てばよかったんだよ!」
「……こちらリンク、パイロット脳波低下中……薬品種・ブラボーの投与を要請します」
<こちら管制室、その要請は受理できません。心身への負担が大きすぎます>
「現状を打開するための最大限の策です」
「……かまわねーよ、薬……さっさとうってくれ。じゃねーとリミット来てゲームオーバーだ」
<ですが……>
「うだうだうるせーんだよ……あいつらは俺らを侮辱しやがった。それは万死に値すんだ……俺は、俺が侮辱されんのは気にしねーがな……仲間が侮辱されんのは我慢なんねーんだ」
<…………了解しました。司令にはあとで私から報告書を提出しておきます……薬品選択・ブラボー……安全弁解除開始。それとその……必ず、帰ってきてくださいね。でないと寝覚めが悪いですから>
「へへへ、あんがとよ……」
<薬品投与管の接続を確認……最終弁開放、薬品投与開始……リミッターオールオフ。限界までいけます……グッドラック>
 その言葉を最後に通信が途切れる。
「ありがたい限りだねぇ……こりゃ今度デートにでも誘って埋め合わせしねえとな」
「勝手にしろ……くるぞ」
「敵弾着弾まで後5秒」
「へん……遅いってんだよ!」



 沈黙を破ったのは、一発のレーザー砲だった。
 爆炎巻き上がる中、それを突き破っての一発は一時的とはいえ、黒曜たちの連携に的確に崩し、決定的な穴を開けるのには効果的過ぎたといえるだろう。
 穴の開いたそこに飛び込んだのは被弾した装甲を全廃した大型I=D。装甲をなくしたそれは機体にかかるGがすでに想定された3倍を超える超高起動仕様となり、あらゆる部品を撒き散らしながらごろごろと転がるように黒曜達のど真ん中に躍り出た。
 そして、その瞬間にはもう勝負が付いていた。



「こ、これはなんなんだにゃ……」
 ハンガーに収まっているのは、ほとんど内部機関がもろ丸出しなうえに被弾のダメージで既に破棄寸前の様相となった大型I=D試作機と、脚部を大型レーザーで打ち抜かれた黒曜4機であった。
 茫然自失状態の冴月を置いて、静は気難しげな顔で黒曜を見つめた後、降りてきて以来ぐったりと地面に座るパイロット達に下へと歩いていった。
「お前ら、またずいぶんと派手にやられたな」
「す、すみません……静さん」
「いや、いい……予想は出来たことだ。もっとも……予想よりも被弾面積がでかいがな」
「う、うぅ……」
「まあまあ、そんなに気難しい顔してると老けますよ、静さん」
「そうそう」
 そこに今まで被弾した4機の黒曜の回収を担当していたプロメテウス(仮)とカワウソがフォローを入れる。
「お前らな、これ直すの俺なんだぞ?……まったく、こりゃ3日徹夜だ、やれやれ……ん?」
 黒曜から視線をはずすと、目の下に色濃いくまを浮かべて息絶え絶えな様相の名パイロット3人が近づいてきた。
「……」
「……」
「……」
「……あんだよ?」
 沈黙に負けたのか、先に声を出したのは戦車兵のほうだった。
「……今回の勝負はお預けだ。次は負けねーからな」
「まて、今回の勝負はお前らの」
「なに言ってんだ。俺はなぁ……俺は、仲間の侮辱は手前らの命で支払わせるつもりだった。だが……今回はそれが出来なかった……だから、次は手前らをぶっ殺す……覚悟しとけよ?」
「…………っへん、望むところだ。返り討ちにしてやる」
「んだとこら」
「あんだよ……やるかこら?」
「……へへへ」
「……ふん」
 最後に互いに笑顔で握手を……

 ごす!

「痛って!!」
「うぐっ!」
 握手に持っていった手はそのまま拳になり、吸い込まれるように互いの頬に向かって直進して……派手な音を立てて真っ赤な拳の形の痕を刻んだ。
「て、てめえやりやがったなこん畜生!!」
「てめえこそ不意打ちなんて卑怯な真似しやがって!!」
「このやろう……今すぐにでもぶっ殺す!」
「望むところだ、返り討ちにしてやるぜ!!」
 どうやら彼らの衝突は、まだまだ続きそうである……。
iイラスト by 冴月 & 静 /文章 by ナナシ

西国人+ドラッガー+パイロット+名パイロット

L:西国人 = {
 t:名称 = 西国人(人)
 t:要点 = 砂避け、日焼け対策された服装,エキゾチックな人材,灰色の髪→西国人より継承
 t:周辺環境 = 交易路,涼しい家,巨大な港,蜃気楼,オアシス→西国人より継承


L:ドラッガー = {
 t:名称 = ドラッガー(職業)
 t:要点 = 病的,薬を静脈に入れるための管→当ページイラスト
 t:周辺環境 = 廃墟→当ページイラスト


L:パイロット = {
 t:名称 = パイロット(職業)
 t:要点 = パイロットスーツ,マフラー→当ページイラスト
 t:周辺環境 = 飛行場→当ページイラスト


L:名パイロット = {
 t:名称 = 名パイロット(職業)
 t:要点 = 略帽,イエロージャンパー,航空用腕時計→当ページイラスト
 t:周辺環境 = コクピット→当ページイラスト