NKD-01、黒曜子。それはメカを人に近づけるべく開発された超AI搭載のガイノイドであった。確かにAIは優秀で、人語による会話を可能とし、各種作業も楽々とこなした。だが、開発体制にはいくつかの問題があり、結果のみを急ぐ傾向が顕著であった。また動力炉周りは事故が多く、国内のみならず輸出された多くの国でも事故が多発するという結果となり、OTeCSからの是正勧告もあって、最終的には全機が回収されることになってしまった。

 それは確かに失敗であった。だが、人と意志疎通するオートマトンを作り出す夢が失われたわけではない。また、人に代わる労働力になりうる存在が社会に出た時、何が起こるかはこれで明らかとなった。安価で使いやすいロボット労働者に押され、失業者が大きく増えたのである。だがこれは、一つの未来の示唆でもあった。人は、単純/危険な労働をよりロボットに任せ、創造的な作業に専念できるようになるのだ。

 こうして、新型ガイノイド、NKD−02、通称「黒曜子弐型」の開発が本格化した。

 彼らのスローガンはこうだ。「二度は失敗しない。今度こそ、技術で人を幸せにする」

 大きな変更点として、黒曜子弐型は設計目的を変更し、作業用として開発されている。また基本コンセプトとして、技術の透明性と安全性を重視し、完全に国内の技術のみで開発されることとなった。モデルとなったNKiD−03「黒曜」もそうだが、安価で信頼性の高い機械こそが、真によい機械であるからだ。

 まずメスが入れられたのは頭脳たるAI部分である。ハードウェアの面ではかなりブラックボックス化していたNKD-01モデルが廃され、処理能力及びサイズ、汎用性、コストなどを検討した結果、ホープタイプにも使用されている脳チップ型の演算ユニットを使用することになった。しかしソフトウェア面…肝心のAI開発技術は満足なものとは言い難く、動作系のプログラムとはともかくとして、言語エンジンまわりはかなり弱いものとなってしまい、定型文での命令に従うのが限界であった。ちなみに絢爛世界のように脳コピーでスタートする案はあったが「つまらん!」と蹴られている。それではAI開発にはならない、というわけだ。だが開発陣は弐型AIを無名騎士藩におけるAI開発のスタート地点と位置付けており、今後のバージョンアップに期待してほしい、とのコメントを残している。

 当然ながら、動力系も改修の手を逃れられなかった。安全性、コスト、効率を秤に掛けた結果、極常識的な結論として小型超伝導バッテリーが採用され、バックパックとして実装された。稼働時間は2時間の充電で平均6時間、充電中はAIその他全ての機能がスリープ状態になり、文字通り眠る。ちなみに電力消費量はかなり多く、家一軒が一日に消費する電力とほぼ同じくらいである。

 機体は作業環境を考慮したハードタイプとされ、基本構造はモーター駆動のシンプルなものとされた。インテリジェントマッスル・マテリアルという案も考えられたが、整備保守コスト、材料コストがやはり嵩んだためである。また、多種多様なニーズに対応するために腕・脚はオプション化され、用途に合わせて交換可能になっている。これはある程度のメンテナンス性の向上にも寄与してはいるが、対応プログラムは基本状態では実装されていないため、調整にはかなりの(それこそマイスタークラスの)腕を要した。

 こうして完成した黒曜子弐型は、作業用としては十分なパフォーマンスを発揮した。少人数の作業監督者が適切な作業指示を行えば、過酷な環境でも高効率に作業が行えたのである。かくして、黒曜子は新たな姿を得て生まれ変わったのだった。

 なお、回収されたNKD-01はAIの蓄積データを弐型に移植、機体はリサイクルにまわされ、危険な動力炉部分は無人の砂漠に集積した上で、リワマヒ国の協力により放射能物質吸収ヒマワリ”ひゅーがあおい”で放射線を封じ、爆破処分されている。その後は黒曜子弐型によって種が植えられ、残存放射性物質を浄化すると共に緑化が行われ、少しずつではあるが緑が戻っていった。

 NKD-01の反省から、黒曜子弐型の配備開始と同時に税制が改定され、本機には本体価格の200%の税金(通称、黒曜税といわれた)がかけられた。これを財源に新装備開発やバージョンアップ等のアフターサービスが行われているほか、雇用・教育政策にも配分されることとなっている。
 また、検査登録制度も同時に発足した。これはいわゆる車検と同様の制度で、安全・保安基準に適合しているかを確認するために一定期間(1年)ごとに公的機関が検査を行い、また所有権を公証するために登録する制度である。この登録を受けなければ、公的な使用及び所有権委譲を行うことができない。
正式名称 NKD-02
通称 黒曜子弐型
頭頂高 159 cm
重量 標準仕様 115kg
(素体 75kg)
最高速度 15km/h
動力 電力
最大稼働時間 6時間
充電時間 2時間
装甲 なし


 今日も今日とて無名騎士藩国の太陽は高く、じりじりと熱い日が続いていた。
 そんな平穏な日常の裏側で、太陽の恩恵をサンサンと受け猫の敵が着々と増殖し、その力を増していたのだった………

 それは猫たちによって直訴が政庁に届けられたことが始まりだった。曰く「ノミが多くてヤバい。かゆくてヤバい、薬をもらって治しても、また新しいのがすぐに来るにゃ。どうにかならんかにゃー」
 ノミ、それは猫たちの頭の痛い問題である血を吸う寄生虫である。吸われるともちろん、カユい。本来なら、薬と地道にぷちぷち潰すくらいでなんとかなるのだが、今度は少し違うらしい。
 政庁はこれに対し調査委員会を設置し調査を開始、ノミの出所を猫たちに聞きながら、自分たちもカユい思いをしながら情報を集めた。
 調査の結果、どうやら砂漠の近くからノミは来ているのではないかとのことであった。すぐさま委員会は調査員を派遣、事態の究明に努めた。彼らがそこで見たものとは。
 地面でゴロゴロしながらカユがる猫たちの姿だった。
「病院行けよお前らぁ!」
 ごもっともである。しかし、彼らの言い分はこうだ。
「行ってるにゃ。でもでも、薬を使って治してもまた来るんだもん!」
「・・・水浴びとかして定期的に清潔にすればノミはそんなにひどくはつかんぞ」
「ギクゥ!!」
「・・・・・・」
 なんと、砂漠地帯の近くに住んでいた猫たちが水浴びをしたがらず、ずっとぐーたらしていたところノミが増殖、彼らが病院に行くたびに都市部の猫たちに彼らにくっついてきたノミが引っ越しする。しかし、そもそも水浴びしないためすぐにノミが増える。また病院行ってノミを都市部に残す。この悪循環。このままだと人間にもカユい被害が及ぶ。そのため開発されたばかりの黒曜子弐型に新機能が搭載し、これを撃退することを決定した。
 その新機能とは、読んで字の如くノミをぷちぷち潰す機能である!文字通り機械のような精密動作でノミを蹂躙し続けるのである。(いや、機械なんだけどね)
 飛んで逃げようとするノミが出ても大丈夫! 弐型のセンサーはすべてのノミを見つけ、彼女のお手手は正確にヤツらを虫けらのごとく叩き潰す!(いや、虫なんだけどね)

 彼女たちによってじきにノミたちは殺戮されつくすだろう・・・
そしてその後、水浴びしたがらない砂漠近くの猫たちはボランティアの猫好きと弐型たちによって例外なく強制泡 風呂の刑に処され、この事件は収束した。
(幸い、増殖したノミたちは病原菌等を保菌しておらず、大事は起こらなかった・・・)

「で、何でそんなに水浴びきらいなのよ」
「もともと猫はそんなに水浴び好きな生き物じゃない! それにこの国砂漠よ!? 水に慣れ親しんでないのよ!」
「必要最低限度は水浴びしなさい、今後は改めてください。改めないとボランティアによる第二次強制泡風呂大会(イベント)が開示されると思ってください」

・・・今後は定期的に水浴びするとのお約束をいただきました。万事解決!!(それでいいのか?

 近頃、無名騎士藩国では害虫、正確に言えばゴキブリが大量に繁殖していた。
藩国内では、「マジ勘弁してください」、「いや無理ですから。そんな生き物」と言った声や、見ただけで悲鳴を上げる暇もなく卒倒する人がよく目撃された。

ある家庭の奥さんは語る。
「ホント、ご飯作ってるときに出てこないで欲しいわよ。主人に退治させようとしたら、見ただけでぶっ倒れるてるし。まったく、使えないわね、男ってやつは」

ある家庭の夫は語る。
「私は本当にゴキブリが苦手でして。それなのに!それなのに!家内は私にゴキブリ退治を強要するのです!無理ですから!それなのに、ゴキブリ退治を強要するんですよ。私が無理だと言ったら、小遣いを減らすとまで言ってきているんです!家庭内での私の立場もだだ下がり、子どもたち、特に娘の視線が冷たいんです。どうか、助けてください!!」

ちなみに、この家庭では、奥さんがゴキブリを新聞紙で叩いた後、その新聞紙を片手に夫を説教しているそうだ。心中お察しします。


そんな悲しくも、恐ろしい嘆願を聞いた藩王GENZは、黒曜子弐型対G装備の開発を発表、数日後にはロールアウトし、配備された。
このような、あり得ない速度で黒曜子弐型G装備の開発が完了したのは、開発陣が皆ゴキブリが苦手で、家庭での居場所を失いつつあったことが理由であった。


 黒曜子弐型対G装備とは、両手に新聞紙型バトンを装備し、バックパックとして新開発のフェロモン・スプレッダー、更に専用装備の電流服を装備したものである。
 フェロモン・スプレッダーとは、ゴキブリの集合フェロモンを周囲に散布し、黒曜子弐型対G装備の周辺にゴキブリを惹きつけるものである。
 即ち、フェロモン・スプレッダーでゴキブリを集め、集まってきたゴキブリを両手のバトンでせん滅するのである。
更に、万が一バトンを掻い潜り、黒曜子弐型対G装備に直に接触するゴキブリが居た場合、電流服の表面に電流が走り、接触したゴキブリを焼き殺すのである。尚、この電流は人体や、ペットに害を及ぼすような出力ではないことを追記する。

藩国中に、黒曜子弐型対G装備が配備され、藩国からゴキブリは一掃された。

国中の男たちが、“黒曜子万歳!”と叫び、一部の者はすっかりファンとなり、黒曜子フィギュアを買い始め、それにより奥さん方の怒りが臨界を突破し、小遣いの大幅カットを食らう家庭が激増したが、それは別の話である。

藩国を襲う、ゴキブリの危機は去った。
だが、考えてみてほしい。ゴキブリの本当に恐ろしい点は、その繁殖性にあり、今生きている全てのゴキブリが死んだとしても、まだ生まれていないゴキブリが多数いるのだ。
それを殲滅するのは、各家庭の仕事であった。
そう、家庭内での居場所を失っていたお父さんたちの仕事である。
お父さんたちは、「動いてないんだったら怖くないわ!」と叫びながら、ゴキブリの巣を殲滅し、部屋の隅の汚れや空調の配管の掃除に勤しんだ。
それにより、お父さんたちは、元の立場を取り戻し、家庭の食卓に笑顔が帰ってきたという。

けれども、ゴキブリはいつ繁殖するかわからない。汚い部屋があればすぐ繁殖するのだ。
ゴキブリは虎視眈々と、家庭を襲う機会を窺っている………。


え?よく考えると、元々の原因は部屋の掃除をちゃんとしていなかった、家族全員にあるんじゃないかって?
怒れる奥さんにそんな言葉は通じないのだ。


 黒曜子弐型プロジェクトは、黒曜子弐型における動力の電力への移行、さらに本格的に労働力として大規模利用が行われることにより、稼動用として大幅な電力使用が想定され、わが国の電力消費量の大幅増加は間違いない、という予測を提出した。

 わが国のエネルギー担当機関はこの予測に基づき、大規模な電力増産計画を協議した結果、
一、広大な砂漠を有するわが国の立地を利用し、砂漠に大規模な太陽光発電施設を設置する
ニ、同じく広大な砂漠を利用し大規模風力発電施設を設置する
三、海底の地熱を利用し、大規模地熱発電施設を利用する
 という結論に至った。

 このプロジェクトに対しては、黒曜子弐型の活用法を国家自ら広くプロモーションする意味もこめて、せっかくの黒曜子弐型の力を活用しない手はない、ということになり、計画そのものが黒曜子弐型の性能を頼りにして行われた。
 大規模な工事での大量運用、さらには砂漠や海底といった人が行うには危険であり効率にも限界のある苛酷な環境での使用こそ、無人機である黒曜子弐型を十二分に活躍させられる場である、ということを広く知らしめ、その有用性を実証・確認する絶好の機会でもある。

"砂漠の高熱や砂嵐、海底の水圧や無酸素を超えてみせればいい、きっと超えてくれるはずだ"

このため、本施設の設置、さらにその後の管理・整備にいたるまで、広く黒曜子弐型を投入して行われた。このことは功を奏し、これらの予想、そして願いは、安全性の大幅な向上と、人間の限界を超えた環境への適応による効率アップ、さらには人間、有人機では不可能であった作業の成功という形で実証された。

 特にこれらのことが色濃くあらわれたのは、海底地熱発電施設の設置である。高い水圧、無酸素下という人間ではあまりにも過酷な状況でも、黒曜子弐型は高い稼働率を発揮し、今までは不可能であった水中開発を成功させた。
この海底地熱発電施設そのものが、黒曜子弐型を全面的に活用し、不可能を可能にするという基本コンセプトのもとに計画・実行されたものであり、そのために水中用特殊装備や、連続稼動用の有線電源ケーブルなどが用意され、使われた。
その甲斐もあり、狙い通りの結果を叩き出すことになる。

 無論、人的資源をまったく活用しない、ということではない。安全性のためオペレート要員が投入されるのは当然である。また、黒曜子弐型はAI性能の限界もあり、精密性は高くとも判断力は持ち合わせていないため、この部分に優位性を持つこのような計画における通常の人員も投入されている。彼らなくしてこの計画の成功はありえない。

 また、施設完成後も、整備・管理が必要となることは無論である。電力生産や送電のシステム、さらにそれを管理するコンピュータシステムはもちろん、砂漠にある太陽光発電施設や風力発電施設では防砂、海底地熱発電施設では耐水圧や防水など、苛酷な環境特有の防御システムの管理も重要である。ここでも、そういった環境下で力を発揮する黒曜子弐型が活躍することになり、コンピューターシステムや各システムの最終確認用に多くの人員は投入されているが、多くの、特に危険な部分に黒曜子弐型が多く投入されている。
文章:ハロルド・ロット、山前靖也、GENZ、黒野無明 イラスト:獅進 超辛協力:玄霧、アシタスナオ

L:無人化の嵐(無名版) = {
 t:名称 = 無人化の嵐(無名版)(強制イベント)
 t:要点 = 人型機械,殺戮,増殖
 t:周辺環境 = 砂漠
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *猫のノミ、家庭のゴキブリは激減する。
 }
 t:→次のアイドレス = ゴキブリの復讐(強制イベント),黒曜子(自律兵器),黒曜子部隊の運用(強制イベント),巨利を得るセプテントリオン(強制イベント)