(原型機ver.)

 「それ」が発見されたのは、全くの偶然だった。果ての砂漠において油田採掘のための調査が行われた時、偶然に発見された重力異常。該当地域での重力は平均値のおよそ105%だったが、調査団の一人がわずかな数値の差に気がつき、学術調査を進言したのである。




 重力異常の原因は、1機の人型機械だった。その発見が、全てを変えた。




 およそ50万年前の地層から3ヶ月に及ぶ掘削の果てに掘り出された騎体は、外装こそ朽ち果ててはいたものの二次装甲と駆動系は原型を保っており、機体内部のスキャンを行ったところ、操縦席と思われる空間には人骨が収まっていた。

 技術者達はこの騎体は人が操縦する、おそらくは兵器であろうと推測。報告を受けてこれを視察した時の権力者は直ちに騎体の解析と人型兵器の量産化を命じ、ここに技術者達の果てしない苦闘が始まった。
 
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 50万年の間、地中に封じ込められていたであろうこの機体は、驚くべきことに稼働可能であった。確かに外装の殆どは失われていたが、ジェットエンジンやロケットエンジンなどというものには頼らず重力制御することで飛行し、その四肢は力強く動いた。しかし、その操縦者は理力を操る者でなければならなかった。

 発掘から2年、稼働テストとデータの収集が続けられ…わかったことは、この機体は操縦者の制御する理力によって稼働するということだけだった。機体各所に埋め込まれている宝珠が理力を重力子へと変換、その放出方向を変えることで四肢、さらには機体全体を移動させるのだ。すなわち、この機体には通常の意味の機械的アクチュエータなど存在してはいなかった。骨張った四肢に筋肉はなく、人形使いの操り糸たる重力波によって稼働する操り人形だったのだ。

 しかし、この機体からは重要なデータが得られていた。地上、空中、そして宇宙での人型機械の制御運用データである。確かにその駆動系や駆動方式は一朝一夕に模倣できるものではなかったが、既存のエンジンとアクチュエータで組まれた人型機械…後にI=Dと呼ばれることになる人型兵器の開発資料として、その運用データは大いに役立ったのだ。以来50年、この機体はI=Dの原型としてその運用データを提供し続け…そして、しばらくの間は歴史の闇に消えることになる。

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 再びこの機体…当時の解析主任によってつけられた名は『クェスカイゼス』といった…が、歴史の表舞台に現れるのは800年後のことである。帝國と共和国の戦争は激化、あらゆる倉庫が総ざらえされ、埃を被った本機が再発見されたのだ。

 機体は改めて研究され分解され解析され、そして量産化が決定された。数百年の技術革新は本機の解析に十分であり、ほぼ完全なコピーすら可能となっていたのである。
 この機体はその特性上、白兵距離から近距離の戦闘に向くと目されたが、重大な問題が1つあった。それは理力を動力源としていたことだった。理力使いがまともに剣戟戦闘をこなせる筈もなく、騎士のみが搭乗して駆動できるようにしろという厳命が下され、様々な試行錯誤が繰り返された。


 そして半年の後、画期的なエンジン…エンジンといってよいだろう…が完成する。大魔法使いや高度技術者をを100人以上招集して開発されたそれは、内燃機関と祈祷車を組み合わせることで機械的に理力を発生させるものだった。通常の魔法のように指向性を持つ理力を発生させることはできなかったが、宝珠の駆動には十分な出力が得られた。副次的な効果として、これまで搭乗者の制御力に頼っていた出力制御を機体側から行うことができるようになり、搭乗者は機体の運動制御に集中することが出来るようになり、かくしてまったく理力の心得を持たない騎士がパイロットとなることが可能となった。
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 複製された宝珠は剣と盾にも装着され、本機に巨大な攻撃力・防御力を与えた。
 剣は重力制御で加速され、莫大な運動エネルギーを持って敵機を両断。盾は重力障壁をもって敵弾・敵剣を防ぎ、鉄壁の防御力を誇った。

 また、肩部の巨大な宝珠は膨大な重力制御能力を持ち、これによって「重力レールガン」とも言うべき兵器の使用が可能となっている。これは精密重力制御によって仮想砲身を形成、小鉄球を大加速させて撃ち出すものである。物理的砲身は不要、大気摩擦音を除いては無音で発射できることもあり、正面砲戦のほか奇襲用としても重宝された。
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 新たな力を得たクェスカイゼスは、あらゆる世界での駆動が可能だった。機械が止まる世界、理力が無い世界でもその歩みは止まらなかった。限定的ながら量産された機体は、白銀の鎧に身を包み、幾多の戦場で活躍することになる。

(制式採用ver.)
絵:11-00733-01:しじま
文:33-00647-01:GENZ