■咲き誇る華■

 周辺地形のデータをロードする。が、地形情報に穴が多い。人気のなくなったビル街であるようだが、 ところどころにあるはずのビルの倒壊について、不鮮明な注意しか載っていない。
 今回のシミュレーションにおける状況設定により、地形データは正確な調査に基づくものではなく、
航空写真を分析して再構築したものしか与えられていないのだ。
 戦争に臨む際、地形を予め正確に把握できている事はそう多くないし、
それが攻勢戦であれば尚のこと、その傾向は強まる。
 勿論それでも、可能な限りは地形把握の努力が行なわれるべきではあるが、情報不足の中で戦わなければならない局面は必ずやってくるから、
今回のシミュレーション、新型HWT、NKTN−05”鳳仙華”の運用試験では、
『ないよりはマシ』程度の地図を使って、目的達成のために動く事になるのだった。


『今回のミッションは、市街地を進軍中の敵の大部隊への奇襲となる。
敵の前衛を潜り抜けて、敵の主力に接近し、SSMをばら撒いた後、帰頭するのが目的だ。
戦場は廃棄された旧市街地。10〜40mのビル郡が戦場に広く分布しており、視界の確保は難しい。
倒壊したビルもあるため、足場が悪い箇所も多いだろう』


 ブリーフィング時の説明を思い出す。
 無名騎士藩国軍における戦車兵系パイロット、その中でもエース級と呼ばれる腕利きを集めて作られた自分達の部隊だが、
鳳仙華の性能を最大限に発揮した事は、まだ、ない。
 これまで、試運転と歩行・行軍系の訓練以外がメニューに組み込まれておらず、
HWTを『使う』と言うには到底はばかられる程度の時間しか、鳳仙華には触れられていないのだ。
 たかだか100時間程度の訓練で機体を語る方がおこがましいのは承知の上だが、
つがるおとめや新婚号など、歴代の人型戦車を乗りこなしてきたという自負からすれば、
時折挟まれた射撃訓練すら、ただのお遊びに思えてならなかった。


『玲瓏部隊による砲撃は可能だが、攻撃可能回数は限られる。
理想はSSMの発射と同時に砲撃を行なう事であるため、支援に期待はできないと思え。
……次に、予想される敵前線の戦力は、MBTが5、支援車両が3、HMTが3となっている。
相手がこちらを発見するのが難しいのと同様に、こちらも相手を補足するのは難しい。
敵機の性能は、過去の戦争時における敵性組織の保有機体からシミュレートして作成してある。
旧式機ではないので、ゆめゆめ油断する事のないように』


 何より、シミュレーター上でもいいから、戦場で動かしてみない事には、機体についての実感を得られないというのが大きい。
 鳳仙華のスペックデータが優れている事はわかる。数度走らせてみただけで、俊敏性の大幅な強化や、
センサー系の向上、FCSの改善など、目に見える進歩は多数あった。
 しかし、戦場で自らの命を預ける相棒を、カタログスペックだけで選択する事はできない。


『遭遇戦が多発する事が予想されるため、HMTの機動性を最大限に発揮しなければ、戦力差によって一方的に損耗するはずだ。
諸君らには、慎重かつ迅速な作戦遂行と、確実な帰還を期待する。何か質問は?』


 久方ぶりのミッションとしては些か難易度が高いが、丁度いい。この機体の限界を見極めさせて貰うとしよう。 


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「武装の選択は一番機が90mm散弾砲。二番機三番機は35mm機関砲ですね。オートカノンは使わないのか」
「入り組んだ地形だからな。長物が邪魔になると見るのは妥当な所だ」


 モニタールームのオペレーター席に腰掛けている男の説明を頭に入れながら、GENZはセントラルモニターを注視していた。
 今回の戦場となる市街地は、障害物が多いせいで直射砲の狙いがつけにくい。
かといって曲射砲を使った攻撃では時間がかかり、重要目標を撃ちもらす可能性もある。
 第五世界戦の切り札をこの突撃仕様に決定して開発を開始したのは、
この入り組んだ戦場を柔軟に制圧する要素こそをHWTに求めたからだ。
 玲瓏と蜜月号がある以上、砲撃性能の高さはいらない。
機動力を活かし、相手の懐にもぐりこんだ上で、決定的な一撃を叩き込める機体が必要なのだった。


「いよいよですね、陛下。05は我々の期待に応えてくれるでしょうか」
「ああ……大丈夫だ。やれる事は全てやった」


 要求性能に応えた性能は、設計に盛り込んだつもりだ。後は機体性能が目標値に達している事の確認と、
試験運用によるデータの蓄積を行なっていけばいい。
 藩王でありながら優れた技術者でもあるこの男は、予想される戦場から逆算して、
NKTN−05の要求仕様を決定、手ずから設計に携わっている。
 生半な開発関係者では及びも付かないほど、鳳仙華の実態については熟知しているのだった。


 鋼の号を持つ男、GENZの目が鋭く光る。訓練が始まろうとしている。


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「後はパイロットですが。陛下のお眼鏡に適う程の腕前となると、やはりごく限られておりまして」
「一部のエースだけが使えても意味はない。教導パイロットにデータを集めさせたら、
それを機体と戦車学校の両方にフィードバックして平均を上げよう」
「はい。モーションを作らされる彼らにとっては、とんだ災難という事にはなるでしょうが」
「彼らの技量についての報告書は読んでいる。力量的に、不可能ではないはずだ」
「無茶振りがお好きですね、陛下。
……左様でございます。ですが、誰も踏み出したことのない一歩を踏み出す勇気は、誰にでもあるものではございません」
「?」
「パイロット達に、どうか一言、お声がけを。そして、陛下の口から、訓練開始の宣言をお願い致します」
「そういうものか……わかった」


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「上体傾いてる傾いてる! 4時方向ビル近いぞ、突っ込むなよ!?」
「おいおいおい、むしろバランス悪くなってないか!?」


 フルマニュアルで動かす鳳仙華は、さながら荒れ狂う台風のようだった。大きく揺れ、倒れそうになる機体を必死で立て直す。
 もし幻燈、戦車兵用WDを着用していなかったら、この衝撃を吸収し切れていたかどうかは怪しいところだ。
 セミオートモードやフルオートモードで操作する限りにおいては、特に既存機との大きな違いは感じられなかったはずで、
速度や出力の差はあれ、ここまで操縦が難しいといった事はなかった。
 それでも、油断は決してせず、資料にも良く目を通し、強化された機動性については把握に努めてきたつもりだ。


 しかし結局、このざまだ。
 従来機と比較して、より人に近い重心移動、より高次の人工筋肉制御を可能とする鳳仙華においては、
それらの統括を人に委ねたフルマニュアル操縦に求められる集中力と技量も、これまでと段違いとなるらしい。


 進路の邪魔となっている20mほどの高さの高架に向けて、駆け出す一歩ごとの歩幅を修正する。
ホップ・ステップ・ジャンプのタイミングでより高く飛び上がるためには、
距離計算と同時に、瞬間加速と、地面を強く蹴るためのタイミング調整も行なわなければならない。
 ほんの一瞬の減速の後、機体全身のグラインドを大きくすると、モニターにエラー表示が3件続けて映し出された。


「新型だからってシステムエラー吐き出しすぎだろう! 開発の奴らは何やってたんだ!」
「機体のパワーに振り回されてる。っていうか旧型のOSを少し弄った程度じゃないか、これ」


 ままならない機体制御。
 バランサーを始めとする各種計器と、システム側に蓄積されたモーションデータがそれを補おうとしてくれるものの、
今度はそれらを、機体の瞬発力が邪魔してくる。
 鳳仙華のスペックアップそのものは、年月の経過によって向上した技術力のフィードバックでしかないが、
機体全体のパワーが増したその分だけ、舵取りにかかる重みも増している。
 普段運動をせず、効率のよい走り方を知らない人間には、鍛え抜かれたアスリートの体で満足に走ることは難しいのと同じように、
鍛えられた体を存分に動かすための経験が、まだこの機体には致命的に足りていないようだった。


「足りない部分を人任せにしすぎだ……くそ、一から全部自分でやれってか!」
「仕方ない。目はやってやるから調整に専念しろ……っていうか前、前前! ぶつかるぶつかる!」
「わかってる!!」


 人が走る時も、自らのどの筋肉をどのように使うかを意識するか否かの差は大きい。
 より巧く、より迅速に市街地を駆ける上で、この機体のどこの筋肉をどのように使うべきなのか。
 人が人である以上、体の使い方が判らないという事はないが、それをHWTに再現させる作業を、
この土壇場で、即座に行なわなければいけないらしかった。


「大まかにはつがるおとめと一緒なんだ。無理な力を入れず、自然に動かせばそれでいいはずで……」
「体幹が安定した。いいぞ」
「足をまっすぐ下に、強く降ろす。で、同時に振り上げる足は縦方向を意識して……」


 高架を飛び越えるべく、大きくジャンプ。
 地面を強く蹴る事で浮き上がった9mの巨人は、やや前のめりの姿勢のまま、正面斜め上方向へと勢いよく飛び上がっていく。
 しかし高さは足りない。自分のほぼ倍もの高さの建造物に対し、こちらはミサイルパックによって装備重量が上がっている状態だ。
ただのジャンプで飛び越えられる訳はないのだった。
 このままでは、高架に正面激突してこちらが潰れるだけの結果に終わるだろう。


「人間に出来る動きならやれるって話だろ。じゃあ、こういう事くらい出来るよなあ!?」


 とはいえ、ただ何も考えずに飛んだ訳ではない。不足する高さを補う方法はある。
 前に伸ばした右手を高架のへりにかけ、強く力を込めた。
右手を支点にして機体を縦に回転。正面にのみ向けられていたベクトルを上方向にずらしつつ、
効率よく高さを稼いだ後、軽く高架を飛び越える。
 そして着地する鳳仙華。普通のI=Dにはとても真似出来ない、体操選手のような動きをこなしてのけた。
 嘆息。自分自身に体操訓練を受けた経験があったからこそ出来た芸当だが、
瞬間ごとに緊張させる筋肉を切り替えなければならず、他の事を何一つとして考えている余裕がなかった。
運が悪ければ、その一瞬で敵に狙い撃ちされて死んでいただろう。


「おっしゃ。周辺に敵影は!?」
「よくやった! 敵は今の所見当たらない。複座にしたのは正解だぜ、鋼の王」
「それでも手は足りないと思うがな!」


 恐らく、今回の運用データを元にしてOSが書き換えられ、柔軟な機動にシステム側が対応できるように改善されていくのだろう。
 試金石というか実験素材というか、無茶振りをされた事に腹も立つが、
この機体が完全に仕上がれば、市街地戦闘での決定力となりうる可能性は充分にある。
そのための第一歩を踏み出す役割を任じられたと思えば、それは名誉な事なのかもしれなかった。


「王様からの一声、今考えてみるとすっげぇ詐欺だが」
「まあ、いいだろ。とりあえず、こいつをモノにするのが俺達の仕事だ」


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 HWTが”人のように”立ち回れば、市街地は障害でも何でもなくなった。
(と、言い切るには、現時点での操縦手への負担が重過ぎるのは否めなかったが)
 目標地点までは残り半分と言った所で、随伴する僚機ともども、現時点で損害は0である。
 僚機の報告では、途中の道路上に装軌式戦車が2両ほどいたらしいが、
こちらのアクロバティックな動きに全く付いてこれずに終わったらしい。障害物の多さに射線が取れず、狙いをつける暇がなかったのだろう。
 となれば一番の脅威となるのも、敵のHWTだった。という事は、どちらが先に一撃を当てるかの勝負になる。
 新型と言った所で、HWTの装甲が頼りにならない事に変わりはないのだった。直撃を受ければそこまでだ。


「待ち伏せされたら流石に喰らうぜ」
「本来は砲撃で相手の注意を引いてもらってる間に突撃かますらしいけどな……っと、11時方向敵影! 距離400!」


 熱源感知、音源感知などに関しては、ジャミングがあるという設定で機能に制限がかかっている。
 有視界戦闘用の補助機器も多数あるが、ビルによって視程が阻害されれば、自然と交戦距離は縮まってしまうのが道理だった。
 相対距離400mなら、間にビルがいくつもあるため、高速移動中に絶え間なく動く景色の中においては豆粒のようなもの。
ガンナーを担当している相方については、むしろよく見つけたと評価してよかった。


「でも近ぇよ! こんにゃろ!」


 すぐさま間にあるビルの陰に入る。まだこちらを発見されていないだろうかと思った瞬間、激しい機関銃斉射の音が聞こえた。
 走り抜ける前に位置していた箇所が、間にあったビルごと穴だらけにされているのが見える。


「この程度のビルじゃ壁にはならないな。とにかく狙われないように陰から陰へ走るしかない。足元に気をつけろ!」
「無茶言いやがる!」


 間断なく続く機関砲の音が耳障りだ。コンクリートが突き破られる音、割れるガラスの音も恐ろしい。
 1発でもまともに貰えば致命傷になりうる。小さな破片程度ならば被害はないが、さりとてじっと留まる事を許してくれはしない。
 反撃を加えたい所だが、散弾砲で有効打を与えるには距離がありすぎるし、
かといって、ここでミサイルを撃ち込んでは本末転倒となる。
 僚機に敵の情報を通達した上で、他の敵機に見つからないよう祈りながら走るしかなかった。


「三番機から連絡! D12エリアにHWT3。こっちの横を押さえるつもりのようだぜ」
「そっちは二番機三番機に足止めだけでもしてもらえ! 正直、相手してる余力はねえ!」


 更なる敵に冷や汗が頬を伝う。予想された数より敵が多いが、このくらいは実戦ならままあることだ。
 散弾砲で正面戦闘はやっていられない。3機の敵の足止めを頼まれた僚機2機は辛いだろうが、
あちらはチェーンガンを装備している。撃破するまでには至らずとも、時間を稼ぐ事はできるだろう。
 一番機としては、挟撃される前に前進し、インファイトで相手の数を減らしておきたいところだった。


「支援砲撃はまだか! 司令部からの連絡は!?」
「360秒待てってよ!」
「そんなに待ってたらひき肉とゴボウの和え物になっちまうよ!」
「しかも肉が少なすぎる」
「多くても困るだろうが! いいから索敵急いでくれ!」


 玲瓏や蜜月号による砲撃との連携がこの機体の基本戦術だったはずだが、今回はあまり当てに出来ないという事のようだ。
 確かに、実戦がいつだって想定どおりに運ぶとは限らない。
状況によっては、鳳仙華が単独で突出しなければならない状況が生まれる事もあるのだろう。
 そしてその時、この機体の性能を極限まで発揮できるかどうかが、戦局を左右する可能性だってあるのだ。


「結局全ては『やるか、やらないか』かよ。いつもそれだな!」
「ぼやいてる場合じゃない。敵がこっちを見失ってる今がチャンスだ!」
「わーってるよ!」


 まずは敵のHWT、こいつを狩る所から始めよう。


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「いかがでしょう。我が隊のエース達は」
「思い切りがいいな。マニュアル制御にも熟達している。このレベルのパイロットの数を揃えられるか、だけが問題だろう」
「彼らの積み重ねたデータがあります。訓練課程に反映する事もできるでしょうな。問題があるとすれば……」
「コストか」
「はい。パイロット養成機関の規模を大きくして設備も揃えなければなりません。訓練にかかる時間も増加しますが」
「促成栽培をしようというつもりはないから時間はいい。費用については……いや、改めて検討するしか」
「前向きなご検討、宜しくお願い致します、陛下」


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 幅跳び左、方向転換、すり足、ダッシュ、すり足、すり足、方向転換。
 細かい機動を繰り返し、遮蔽を使って身を隠しながら必死に距離をつめる。
 9mサイズの巨人を隠し切るのには、街のビルは若干高さが足りなかったが、そこはHWTの強み。
腰を落とし、姿勢を低くする事で2mほどを稼ぐ事ができた。
 時折掃射される機関砲から逃れるのには大層肝を冷やしたが、
それでも、これだけの距離を移動するのにかけた時間は、非常に短いと言ってよい。


「今の所周囲に他の敵影なし。正真正銘、ここからが勝負どころだ」
「よっしゃ食いつけたぁ! もう死んでも離れねえぞ!」


 実に高度で、しかし非常に地味な作業の末、ようやく接近が終わった。彼我の距離は120m。これなら、武装面で優位に立てる。
 最後にもう一度だけ身を隠し、手榴弾のピンを抜く。人型機動兵器の中でも特に器用なHWTだからこそ柔軟に扱える武装であり、
そして歩兵戦同様に、障害物のある戦いにおいてはこの上なく効果的な代物だった。


「1・2の、3……っと!」


 壁際から腕だけを出し、投擲。そこから数秒待つ間に武装を散弾砲に持ち替え、爆発を待った。
 手榴弾の破片被害はHWT相手なら致命傷を与えうるはずだが、これで倒せている保証はない。
 爆風を感知した直後に移動開始。こちらに被害のないギリギリのタイミングで突撃を慣行する。


「いた! 1時方向のビルの陰!」
「おっしゃこい! 撃て! 終われ!」
「トリガー!」


 反応の早い敵機だが、手榴弾からは逃れたものの、体勢が崩れている。
 14式90mm散弾砲の照準をあわせる。
この距離なら、いかなHWTの機動性といえど、散弾の被害半径から抜けることは不可能だ。
 二度続けて発砲。着弾の音が雪崩のように続く。
タングステン製の散弾が、敵機をずたずたに引き裂いていく様を確認した。これにHWTが耐えられるはずはない。


「もう動く気配はないな。撃破確認! よし!」
「こちら一番機。目標エリア付近の敵HWT1機を撃破だ! 二番機三番機の援護に回る!」


 これで、今度はこちらが敵を包囲する形になる。戦いの趨勢は、ほぼ決したと言ってよかった。


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「一時はどうなるかと思いましたが、寄り切りましたね。背中にミサイルなんて重荷を背負ってる割にはよく動いた」
「ミサイルパックの重量についてはかなり検討を進めたからな。
短射程でなければ、とてもじゃないがあそこまで軽くは出来なかった」
「して、戦果についてのご感想は」
「結果についてはほぼ期待通り、と言ったところだな。05の運用思想の有効性はこれで実証できたと思ってよいだろう」
「……いやはや、期待が大きかったのか、それとも手厳しいのか」
「?」
「パイロットを褒めてあげてくださいという話です、陛下。高く買って頂いた上での『期待通り』なのだという事はわかりますが」
「……ああ!」


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「いや、まだ終わった訳じゃなくてな?」
「本命はこれから、のはずだが。玲瓏の砲撃も60秒後に来るらしい」


 敵前衛を排除し終わったという事は、これでようやく、今回のミッションの最終段階に移れるという事を意味する。
 突撃仕様である鳳仙華の役割、その最たるものを忘れてはならなかった。


「おし、射撃位置まで後22秒。マルチロックの用意いいか?」
「火器管制オールグリーン。ランチャーのリフト展開完了。いつでも来い」
「おし。突入は幅跳び前でやる。空中で狙いを付けろ!」
「OK。SSM シーカーオープン」


 背部のマイクロミサイルランチャーがせり上がり、ミサイル発射体勢に移る。
 機体が大きくジャンプして障害物を飛び越えた瞬間、大量の敵機が視界に入った。
 ガンナーの視線が素早く敵機をなぞっていくと、幻燈の視線入力装置がそれを検知し、
次々に表示がロック完了を示すオレンジに切り替わる。
 ごく僅かな時間で、ロック数限界までの敵を捕捉することに成功した。


「M・I・S・Sっと」
「盛大に行こうぜ! 鳳仙華!」


 26機もの敵機を対象に、一斉にSSMが飛び散る。そして爆発。
 それはまるでホウセンカの種のよう。戦場に咲く、鮮やかな花火だった。